ゆきの工房・ノベルのイクシア・EXシリーズ:望郷

ノベルのイクシア
EXシリーズ
望郷
掲載日:2019/06/11
著者:黄金のラグナデーモン108世 様
気持ちよく晴れ渡ったある日のとある復興中の市街地。
その街並みを一人の少年が歩いていた。


「今日も平和だな……」


そんな事を考えながら彼、この街の住人である並樹レイジは歩いていた。

彼は今日、友人と待ち合わせをしていた。


「お、待たせたな」

「気にするな。さ、早く行こうぜ。お宝が待ってる」

「ああ」

レイジと話しているのは昔からの彼の友人である。
合流すると、近くの書店へと入った。



「いらっしゃい。お、来たね2人とも」

「ああ、来たぜおっちゃん」



レイジ達は『お宝』を調達する際決まってこの店を利用する。
その為ここの店主である彼とはすっかり顔なじみであった。

「例のブツは?」

「ちゃあんと入荷してるよ。御堂サナの最新作のDVD」

「おお!さっすがー」

「この日の為に小遣い貯めたんだぜ」

「そうかそうか。俺もちょっと見てみたけど、よかったぜ」

「商品に手を付けていいのかよ?」

「使えなくしたわけじゃないんだから平気平気」

「ま、確かにな」

「それじゃあお会計2つで15000マネー……」



店主がレジを打ち会計をしようとしたその時、この店のバイトである男性が血相を変えて店内に駆け込んできた。
なお彼はレイジ達の顔馴染みでもある。


「て、店長大変です!ととと、突然街に……ままま、魔獣が……!!」


魔獣。



その一言に店内が凍り付いた。


「お、おいおい真昼間から何を冗談……」

「本当なんです!!早く逃げないと……」


その時店の自動ドアが開いた。
しかし客は入ってこない。
自動ドアが反応した人物は片腕を失った状態で血を流し、入り口に倒れ込んだからだ。

そしてその人物の体に覆いかぶさるようにして、蜘蛛に似た化け物が出現した。


「ま、魔獣だー!!」

「逃げろー!!」

店内はたちまち阿鼻叫喚の騒ぎとなった。


「どうして魔獣が!?」

「とにかく逃げるんだ!裏口へ!!」


裏口から街へ出ると、そこは既に人々の悲鳴と魔獣の雄叫びが響き渡るこの世の地獄であった。
魔獣が家を壊した結果、火災が発生したのだろうか?煙も各地で上がっている。


「急がないとヤバいぜ!!」

「俺はレミを助けに行く!!」

「俺も家にいる親父とお袋の様子を見に!」

「わかった、後で街の入り口で!!」

「死ぬなよ。おっちゃんもバイトの兄ちゃんもな!」

「あたぼーよ。年金貰う年になるまで死ねるかってんだ!」

「俺だって彼女も作らない内に死んでたまるか!」

「御堂サナの最新作、何が何でも拝んで見せるぜ!!」

そうして4人はそれぞれの思いを胸にそれぞれの方向に走っていった。


そして、これがレイジがこの3人の顔を最後に見た時であった。







あいつやおっちゃんだけじゃない。

両親を亡くした俺達の世話を何かと焼いてくれた隣の夫婦も。
レミがお気に入りだったケーキ屋のお姉さんも。


もういない。


隣のおばさんはよくカレーだの肉じゃがだのを作りすぎて、おすそ分けしに来たっけ。
おじさんも俺達に小遣いやプレゼントをくれたな。


お姉さんは親を亡くして泣いていたレミを慰めてくれた。
そう言えばあの日からか。レミがあの店のケーキを食べたがるようになったのは。

よく買っていたから彼女ともすっかり顔なじみだったな。
今思うと、少し顔がサヤに似ていた気もする。










彼は今、一人で墓を作っている。
墓と言っても、適当な大きさの瓦礫に刀で名前を刻んだだけのものだ。

「ほらよ御堂サナの新作。辛うじて店に1枚だけ残ってたよ。俺はもう見たからお前にやるよ」

DVDパッケージを即席の墓石に置きながら、誰に聞こえるでもなく彼はつぶやく。


「約束の場所には行けなかったけど、みんなの仇も討ったし、これでチャラにしてくれよ……?」



続いてレイジは小さな紙を2枚、2つ目の墓碑の前に置く。
風で飛ばされないように、拳大の石を重しとして置いた。

「おっちゃん、近々奥さんと温泉旅行行きたいって言ってたろ?だからペアチケットを買って来たよ」

ふう、と息をつき、3つ目の墓碑の前に移動する。

「あんたとも良くお宝談議で盛り上がったな。もっといろいろ馬鹿な話をしたかったよ」


4つ目。

「レミがさ、あんたんとこのケーキの味が懐かしいってよく言うんだよ。お店の為に教えてくれなかったかもしれないけど、作り方を聞くだけ聞いておけばよかったよ」


そして2人分の名が刻まれた5つ目。

「おじさん、おばさん。俺さ、好きな人が出来たんだよ。サヤって言って、すっごい綺麗でいい娘なんだぜ?」

そして彼は天を仰ぐ。その顔には2つの光の筋が出来ていた。


「2人とも早く彼女作れってうるさかったよな?紹介して、驚かせたかったよ……」


ふと背後で何かの動く気配がいくつもする。
この街を滅ぼした連中が生み出した彼らには他人の墓参りを邪魔しないという礼儀は備わってはいない。
彼らの頭は新鮮な肉を得る事だけで一杯なのだ。


「本当に無粋な奴らだな……墓参りぐらい静かにさせろよ……!!」




静かな怒りと共に流奏斬を何度か繰り出しただけで9割以上が物言わぬ肉塊と化し、残りは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

「じゃあな。また来るからな」


そして彼は即席の墓に背を向け歩き出す。


今共に生きている、なくしたくない大切な者達のいる所へ。