ゆきの工房・ノベルのイクシア・本編シリーズ:繋がる想い

ノベルのイクシア
本編シリーズ
繋がる想い
掲載日:2019/12/21
著者:黄金のラグナデーモン108世 様
風の渓谷。

名前通り風の吹き荒れるこの場所には風属性の……逆に言えば雷に弱い魔獣ばかりが生息しており、クウヤのプラズマミストが猛威を振るった。



「……にしても何だったのかしらね、あの塔は」

というカレンに。

「さあな。古代の遺跡かなんかじゃないのか?」

レイジがそう返す。
彼らは道中恐ろしく高い塔を目にし、岩などで分かりづらい道を辿り接近した。

塔は近くで見るとその桁外れの高さがより身に染みて伝わった。

何しろ魔の樹海の大樹さえも問題にならないほどの高さを誇っていたのだから。
この中に魔石があるのかもと思い入り口の扉に手をかけたが、常人を遥かに凌ぐ力を持つ超越者4人がかりでもビクともしなかった。

扉の傍の古ぼけた石碑には『ソロモンの塔』と記されていたが……




「ま、入れないんだから考えても仕方ないさ。先を急ごう」

「だな。あの中に魔石があるんならむしろラッキーとも言えるし」

「扉が開かなくて悔しがるエミニオンの連中の顔が浮かぶわね」








それから間もなく彼らは目的地に到着した。

細長い道の向こうに楕円形の足場がある。
そこに緑色に光る玉が置かれた台座があった。

ただし、触手を何本も生やしている2足歩行の黒い魔獣がその前に陣取っていたが。

理由は定かではないが、こちらに襲い掛かってくる様子はない。


「……この辺りの元締めって感じだな」

「多分あいつも雷に弱い筈だ」

「って事は私やクウヤの出番ね」

「回復は任せてください」

「んじゃ……始めるか!」


レイジが刀を構えて駆けだす。


彼が細長い道を渡り切った所で魔獣が触手を伸ばす。

横に転がって避ける、と同時にその真後ろからクウヤのエレキバーストが飛来した。
敵は不意を突いた雷撃を顔面にもろに浴び、大きくのけぞる。

やはりクウヤの見立ては間違いなかったようだ。

そこへ脇に回り込んだレイジが双頭刃の連続攻撃を繰り出し、反対側からはカレンの投げた帯電ブーメランが弧を描いて飛んで来た。


あっという間に深手を負った魔獣にもう一発エレキバーストが炸裂する。
渓谷の侵入者たちの連携攻撃の前に、魔獣は数歩後ずさり、そこで倒れ込んだ。



「私の出番、ありませんでしたね……」

と、呆れたようにサヤがいう。

「ま、そう言う事もあるさ」

探偵を自称する男がサヤの肩に手を置いてフォローをした。
















風の魔石は4人の目の前で太陽の光を受け、翡翠やエメラルドのように輝いていた。

「これで風の魔石ゲットね」

カレンがそう言って、魔石を懐に納めると背後で何か動く気配がした。


4人がゆっくりと振り返るといつの間にか倒したはずの魔獣が起き上がっていた。
そしてその触手をサヤに向けて振り回した。


「サヤっ!危ないっ!!」


レイジは咄嗟にサヤを突き飛ばし、身代わりとなって攻撃を受ける。

触手に弾き飛ばされたレイジの足元に地面はなく、ただ虚空が広がるばかりであった。


「レイジさんっ!!!」



サヤの叫びも虚しく、レイジの姿は奈落の底へと吸い込まれていった。


「こいつっ!よくも!!!」

怒りとともに放たれたカレンの銃弾が今度こそ魔獣に永遠の眠りを与える。



「何とか下に降りて助けるぞ!!」

クウヤが持参したロープを取り出しながら叫んだ。







「……イジさ……!!目を……てくださいっ!!……レイ……んっ!!」


誰かが必死に叫んでいる。
正確に聞き取れないが、自分を呼んでいる気がする。



「う……ん……うぅ……」


寝起きの子供のような声と共にレイジは立ち上がった。

重い瞼を開け、目を開けるとそこには彼の3人の仲間がいた。


「あれ……みんな?」


そうだった。自分は確か魔獣の攻撃を食らって谷底に……


「レイジさんっ!!」


考えていると、いきなりサヤがその銀髪を振り乱して飛びついてきた。


「うわっ!」


いきなり抱きつかれたレイジはその勢いのままに尻もちをついた。



「良かった……!!レイジさんが無事で……本当に良かった……」


レイジの胸に顔を埋めているせいで表情は伺えないが、彼女からは嗚咽が漏れていた。




「サヤ……心配かけてごめんな」

レイジはそっと彼女の頭を優しく撫でた。

「そんな事ありません!元はと言えば、私が……!!」

「いや、俺があいつの死を確認すればよかっただけの話だ」


そう慰めて、頭を撫で続ける。


それにしてもこれが超越者の耐久力なのだろうか?
あれほどの高所から落とされたというのに骨折どころか、大した痛みさえ感じていない。





「ゴホン!」




そんな事を考えていると、カレンがわざとらしく咳払いをした。
その音で我に返った二人はさっ、と距離をとる。



「お二人さん、とりあえずレイジも無事だったんだし街に戻りましょ」


「そうだな。目的も達成したし、さっさと事務所に戻るとしよう」


そう言ってクウヤはスーツのポケットから小さな宝石を取り出した。
それは帰還の秘石と呼ばれるアイテムでここへ来る前に買っておいたものだ。



石が眩く光り、それが収まった時にはレイジ達は既にアークシティの入り口に立っていた。







探偵事務所へ帰還したレイジ達は風の魔石を入手したことを祝し、レミを交えて盛大な宴会を催した。

レミの料理に舌鼓を打ったり、クウヤがコレクションしていたサングラスをかけて写真を撮ったり、カレンが酔っぱらったり……
最近続いた戦いを忘れるほどに楽しいひと時であった。


……ひたすらカレンに飲まされ続けたのはこれっきりで勘弁してほしい所であったが。






その後レイジはため息をつきながら屋上へ出た。
ふと彼はそこのベンチに腰掛け、天空に瞬く星々のように髪を煌めかせた先客を見つける。


レイジが近づくのに気づいた彼女はこちらを振り向く。


「どうしたんだ?そんなところで?」

「レイジさん、しばらく眠れそうにないので夜風に当たりに来ました」

「はは、昨日とは逆だな」

「ふふ、そうですね。レイジさんは?」

「俺も同じさ。あんだけ飲まされたのに不思議と眠気も吹っ飛んじゃってな」

「強引でしたからね、カレンさん」

「あそこまで飲兵衛だったとはな」

「傍から見てる分には面白かったですよ?」

「当事者としちゃそれどころじゃなかったぞ?」

「ふふふ」

「隣に座ってもいいか?」

「ええ、どうぞ」



サヤの同意を得て、彼女の左隣へ腰かける。


「レイジさん、ありがとうございました」

先程までの笑みを引っ込め、神妙な面持ちでサヤが頭を下げた。



「何の事かな?」

「今日魔獣から私を庇ってくれましたよね。そのお礼をきちんと言ってなかったので」

「当たり前のことをしただけさ。むしろ俺の方が感謝してもしきれないくらいさ」

「そうですか?」

「サヤがいなきゃ俺は今生きてすらいないし、レミだってどうなってたか……それにこうしていてくれるだけでも心強いくらいさ」

「そんなこと……」

サヤが照れ交じりに返事をする。

「大切な人の身が危険にさらされて、無我夢中で体が動いていた。好きな女の子を守るのは男として当然の事だからな」

















「えっ!?」



やや間を置いて、隣から驚きの声が上がる。

言ってから気付いたが、後の祭りだ。





どうせもう後には引けない、とレイジは意を決し……






「サヤ、君が好きだ。愛している」

彼女の目をまっすぐ見て自分の想いを飾らぬ言葉で伝える。

するとサヤは目を伏せ

「私もレイジさんが崖から落ちた時、大切なものを失うかもしれないと気が気でありませんでした」









「いつの間にか……私の中でレイジさんが大切な人になっていたのかもしれません」

サヤは笑みを浮かべてそう続ける。


「私、臆病なのかもしれませんね」

レイジはただ黙って彼女の言葉を聞いている。



「私も、レイジさんのこと……好き……ですよ……愛して……います」



彼女が言い終えた瞬間、レイジはサヤの頬に手を添え顔を寄せていく。
拒絶の言葉は上がらない。











そのままの体勢でお互いにじっと見つめ合う。
無言の時間がしばし流れた後……















2人の唇が重なる。



レイジは貪るように何度もキスをし、サヤもまた彼を求めるように積極的に動く。

やがて唇を重ねるだけのキスから、互いの舌を相手の口内に入れるディープキスへと転じていく。


2つの舌が触れあうごとに、頭の中を言葉に出来ぬ快感が駆け巡る。


2人の欲求が高まり、その感情の動きは手の力を強くするという形で表面に顕現する。




しばらくキスに没頭した後、ようやく二人は相手の舌を開放する。
二人の口はサヤの髪のような銀色の糸で繋がっていた。






「……運命の赤い糸ってあるけどさ……俺達の場合は銀色の糸かもしれないな」


「もう、レイジさんったら……」



頬を染めながら、レイジのジョークに突っ込むサヤ。





「レイジさん……その……部屋に行っても……いいですか?」

「え?それって……」

レイジはサヤの言葉の意味を瞬時に理解し、狼狽する。



「レイジさんに……貰ってほしいんです……」

「わかった」




そして二人は立ち上がり、更に愛を育むためにレイジの部屋へ行くべく歩き出す。





奇しくもこの日は魔の樹海で見たのと同じような星空が広がっていた。
しかしその麗しき光景も今の2人の目には入らなかった。