ゆきの工房・ノベルのイクシア・本編シリーズ:星空の下で
ノベルのイクシア
本編シリーズ
星空の下で
「でりゃああ!!」
レイジの唐竹割りが青い海老に似た魔獣の右腕を切り飛ばした。
そしてすかさず首の付け根辺りに勢いよく刀を突き刺す。
樹海の地面に毒々しい青い血液が零れた。
「灯篭!」
トドメとばかりにサヤの拳がもがく魔獣の背中の殻を叩き割る。
「レイジさんも大分戦いが板についてきましたね」
「そうかな?」
「お二人さん、お喋りはそこまでにしてね」
拳銃を持ち、赤いベレー帽を被ったショートカットの女性がたしなめてくる。
彼女はカレン。エミニオンに対するレジスタンス活動を行っている人物だ。
レイジ達は研究所でオグマを倒したまでは良かったものの、そこへ突如現れたエミニオン四天王キサラに捕らわれ、輸送列車で連行される事になってしまった。
そこで出会ったカレンの助けで牢を脱出し、彼女に協力し戦えないレミを庇いながらの不利な状況ながら列車を制圧し、魔石を奪取。
以後レイジ達は彼女らと行動を共にする事と相成った。
魔石とは魔神と呼ばれる魔獣の上位に位置する存在を倒すための兵器の一部なのだという。
6つ集めれば途轍もない力を得る事が出来るこの品をエミニオンより先に入手するのがレイジ達の当面の目的だった。
「そうだ。風の渓谷までまだ先は長い。魔獣もどんどん襲ってくるだろうからな」
そう言ったのはサングラスをかけたスーツ姿の男だ。
「わかったよクウヤ、カレン」
クウヤはアークシティで探偵事務所をやっているカレンの仲間である。
ここ魔の樹海を越えた先の風の渓谷に魔石がある事は彼が教えてくれた。
このような場所でもスーツを着ているのはそれが男の戦闘服だからとのこと。
最初は冗談かとも思ったが、実戦に出ると服装とは不釣り合いな戦いぶりを見せた。
ちなみにレミはその探偵事務所で一人で留守番をしている。
なお非戦闘員であるレミを含めてもレジスタンスは5人しかいない。
……のだが、不思議と不安は感じなかった。
魔の樹海という名前の割には木漏れ日が差して意外と明るく、魔獣さえいなければ森林浴に適した場所と言えよう。
「大きな木ね」
カレンの言う通り、樹海を進んだ先にあるこの樹は相当な大きさであった。
ビル並みの高さに加え、とにかく人間や魔獣が相当数入っても有り余るほどの空間がそこにあった。
幹の太さは大型の野球場やイベント用のドームなどに匹敵するだろうか。
なおそれらの施設は対魔戦争時に大半が破壊されてしまい、今もそのままらしい。
「魔の扉が開いた時の影響か、向こうの世界の植物の種が来たのか……」
言いながらクウヤが愛銃・ワルサーWA2000を構え一発撃つ。
いつの間にか背後から迫っていた青っぽいワニのような魔獣の眉間に穴が開く。
「あるいは、こいつらの死骸なんかを肥やしにしてここまで成長したのか……」
次いで開いた左手から発せられた雷撃が群れで迫った小型の白い魔獣を撃墜した。
蔦を登ったりして頂上と思しき場所へ着いた時、夜営をする事になった。
持って来た布切れや木片などを1か所に集めて、安物のライターで火をつける。
この樹の樹皮や葉は燃えにくい性質を持っているのだろうか、焚火をしていても周囲に燃え移る様子が無い。
そもそもここへ来るまでにクウヤが何回も炎のイクシアを使用して無事なのだから、焚火などで燃える筈が無いのも道理ではある。
鍋にペットボトルの水を入れお湯を沸かし、レトルト食品を放り込む。
紙の皿やスプーンなどの食器も抜かりなく所持している。
そうして食事を終えた後は翌日に備え、すぐに就寝となった。
「ん……」
しかしレイジはどうにも寝付けなかった。
樹の中というだけあって、ごつごつして眠りにくいのだ。
魔獣と戦う組織にいたというカレンはどこでも寝られるようになっているかもしれないが、クウヤはどういう理屈だろう?
などとどうでもいい事を考えてしまう。
ふと辺りを見回すと、入って来たのとは別の道が2か所ある。
その内の一方へと進んでみる。
「おぉ……」
そこには思わず息を漏らすほどの満天の星空が広がっていた。
(なんだか、子供の頃を思い出すな)
まだレイジ達の両親が存命していた頃。
家族でキャンプに出掛けて、こんな風に星空を見上げた事があった。
(レミにも見せてやりたいな)
そんな事を思いながら彼は手ごろな岩に背を預ける。
撫でるような夜風が心地よかった。
……だんだんと瞼が重くなるのを感じた。
白いモヤのかかった紫色の空間にサヤはいた。
「どうかしましたか?」
背後から声がした。
声からすると女性のようだが、モヤのせいか顔は見えない。
「あなたは?」
「お久しぶりですね」
「私と会った事があるんですか?」
「ふふふ……ずっと昔から一緒にいるではありませんか」
「全く身に覚えがありませんが」
「まあ、今は気にしないでいいでしょう。またいずれ会う事になりますから」
「夢……?」
モヤも紫色も無い、先程までと同じ大樹の内部の光景がそこにあった。
ふと右側を見るとレイジの姿が無かった。
最悪の事態を想定しつつ、彼女は両手にプレートグローブを嵌め歩き出した。
「こんな所で寝てると風邪をひいてしまいますよ?」
目を開け声のした方を向くと、銀髪の少女がそこに立っていた。
「サヤ。心配させちゃったか?」
「いえ……」
「夜風に当たりたくなってな」
「そうだったんですか」
サヤはレイジの隣に腰掛ける。
「……少し聞いてもいいかな?」
「はい。何をですか?」
「サヤはどうして俺の住んでいた街に来たんだ?」
「……少し長くなりますよ?」
「構わない」
サヤは語った。
遥か昔から魔獣と戦い続ける退魔士と呼ばれる者達のこと。
修行や戦いなど辛い過去が多く、ろくに友達もいなかったこと。
対魔戦争で亡くした家族の事。
その後魔獣を殲滅するため各地を渡り歩いていたこと。
「だからサヤはエミニオンと戦う事を選んだのか。奴らは魔獣を作るから」
「ええ。それが両親や兄の意思を継ぐことであり、私の使命ですから」
「なら俺も気合を入れて力を貸さないとな」
「ふふっ、頼りにしてますよ。これからもよろしくお願いしますね」
その笑顔にレイジの胸が高鳴った。
「どうかしましたか?」
「い、いや……なんでもない」
「そろそろ戻りましょうか」
「ああ……」
サヤに遅れてレイジも戻る。
高鳴った胸の鼓動はまだ収まらなかった。
今夜はもう眠れないかもな、と心の中でごちるレイジであった。
レイジの唐竹割りが青い海老に似た魔獣の右腕を切り飛ばした。
そしてすかさず首の付け根辺りに勢いよく刀を突き刺す。
樹海の地面に毒々しい青い血液が零れた。
「灯篭!」
トドメとばかりにサヤの拳がもがく魔獣の背中の殻を叩き割る。
「レイジさんも大分戦いが板についてきましたね」
「そうかな?」
「お二人さん、お喋りはそこまでにしてね」
拳銃を持ち、赤いベレー帽を被ったショートカットの女性がたしなめてくる。
彼女はカレン。エミニオンに対するレジスタンス活動を行っている人物だ。
レイジ達は研究所でオグマを倒したまでは良かったものの、そこへ突如現れたエミニオン四天王キサラに捕らわれ、輸送列車で連行される事になってしまった。
そこで出会ったカレンの助けで牢を脱出し、彼女に協力し戦えないレミを庇いながらの不利な状況ながら列車を制圧し、魔石を奪取。
以後レイジ達は彼女らと行動を共にする事と相成った。
魔石とは魔神と呼ばれる魔獣の上位に位置する存在を倒すための兵器の一部なのだという。
6つ集めれば途轍もない力を得る事が出来るこの品をエミニオンより先に入手するのがレイジ達の当面の目的だった。
「そうだ。風の渓谷までまだ先は長い。魔獣もどんどん襲ってくるだろうからな」
そう言ったのはサングラスをかけたスーツ姿の男だ。
「わかったよクウヤ、カレン」
クウヤはアークシティで探偵事務所をやっているカレンの仲間である。
ここ魔の樹海を越えた先の風の渓谷に魔石がある事は彼が教えてくれた。
このような場所でもスーツを着ているのはそれが男の戦闘服だからとのこと。
最初は冗談かとも思ったが、実戦に出ると服装とは不釣り合いな戦いぶりを見せた。
ちなみにレミはその探偵事務所で一人で留守番をしている。
なお非戦闘員であるレミを含めてもレジスタンスは5人しかいない。
……のだが、不思議と不安は感じなかった。
魔の樹海という名前の割には木漏れ日が差して意外と明るく、魔獣さえいなければ森林浴に適した場所と言えよう。
「大きな木ね」
カレンの言う通り、樹海を進んだ先にあるこの樹は相当な大きさであった。
ビル並みの高さに加え、とにかく人間や魔獣が相当数入っても有り余るほどの空間がそこにあった。
幹の太さは大型の野球場やイベント用のドームなどに匹敵するだろうか。
なおそれらの施設は対魔戦争時に大半が破壊されてしまい、今もそのままらしい。
「魔の扉が開いた時の影響か、向こうの世界の植物の種が来たのか……」
言いながらクウヤが愛銃・ワルサーWA2000を構え一発撃つ。
いつの間にか背後から迫っていた青っぽいワニのような魔獣の眉間に穴が開く。
「あるいは、こいつらの死骸なんかを肥やしにしてここまで成長したのか……」
次いで開いた左手から発せられた雷撃が群れで迫った小型の白い魔獣を撃墜した。
蔦を登ったりして頂上と思しき場所へ着いた時、夜営をする事になった。
持って来た布切れや木片などを1か所に集めて、安物のライターで火をつける。
この樹の樹皮や葉は燃えにくい性質を持っているのだろうか、焚火をしていても周囲に燃え移る様子が無い。
そもそもここへ来るまでにクウヤが何回も炎のイクシアを使用して無事なのだから、焚火などで燃える筈が無いのも道理ではある。
鍋にペットボトルの水を入れお湯を沸かし、レトルト食品を放り込む。
紙の皿やスプーンなどの食器も抜かりなく所持している。
そうして食事を終えた後は翌日に備え、すぐに就寝となった。
「ん……」
しかしレイジはどうにも寝付けなかった。
樹の中というだけあって、ごつごつして眠りにくいのだ。
魔獣と戦う組織にいたというカレンはどこでも寝られるようになっているかもしれないが、クウヤはどういう理屈だろう?
などとどうでもいい事を考えてしまう。
ふと辺りを見回すと、入って来たのとは別の道が2か所ある。
その内の一方へと進んでみる。
「おぉ……」
そこには思わず息を漏らすほどの満天の星空が広がっていた。
(なんだか、子供の頃を思い出すな)
まだレイジ達の両親が存命していた頃。
家族でキャンプに出掛けて、こんな風に星空を見上げた事があった。
(レミにも見せてやりたいな)
そんな事を思いながら彼は手ごろな岩に背を預ける。
撫でるような夜風が心地よかった。
……だんだんと瞼が重くなるのを感じた。
白いモヤのかかった紫色の空間にサヤはいた。
「どうかしましたか?」
背後から声がした。
声からすると女性のようだが、モヤのせいか顔は見えない。
「あなたは?」
「お久しぶりですね」
「私と会った事があるんですか?」
「ふふふ……ずっと昔から一緒にいるではありませんか」
「全く身に覚えがありませんが」
「まあ、今は気にしないでいいでしょう。またいずれ会う事になりますから」
「夢……?」
モヤも紫色も無い、先程までと同じ大樹の内部の光景がそこにあった。
ふと右側を見るとレイジの姿が無かった。
最悪の事態を想定しつつ、彼女は両手にプレートグローブを嵌め歩き出した。
「こんな所で寝てると風邪をひいてしまいますよ?」
目を開け声のした方を向くと、銀髪の少女がそこに立っていた。
「サヤ。心配させちゃったか?」
「いえ……」
「夜風に当たりたくなってな」
「そうだったんですか」
サヤはレイジの隣に腰掛ける。
「……少し聞いてもいいかな?」
「はい。何をですか?」
「サヤはどうして俺の住んでいた街に来たんだ?」
「……少し長くなりますよ?」
「構わない」
サヤは語った。
遥か昔から魔獣と戦い続ける退魔士と呼ばれる者達のこと。
修行や戦いなど辛い過去が多く、ろくに友達もいなかったこと。
対魔戦争で亡くした家族の事。
その後魔獣を殲滅するため各地を渡り歩いていたこと。
「だからサヤはエミニオンと戦う事を選んだのか。奴らは魔獣を作るから」
「ええ。それが両親や兄の意思を継ぐことであり、私の使命ですから」
「なら俺も気合を入れて力を貸さないとな」
「ふふっ、頼りにしてますよ。これからもよろしくお願いしますね」
その笑顔にレイジの胸が高鳴った。
「どうかしましたか?」
「い、いや……なんでもない」
「そろそろ戻りましょうか」
「ああ……」
サヤに遅れてレイジも戻る。
高鳴った胸の鼓動はまだ収まらなかった。
今夜はもう眠れないかもな、と心の中でごちるレイジであった。