ゆきの工房・ノベルのイクシア・本編シリーズ:悪魔の研究所

ノベルのイクシア
本編シリーズ
悪魔の研究所
掲載日:2019/06/11
著者:黄金のラグナデーモン108世 様
レイジ達が住んでいた街の北。
そこにエミニオンの研究所はあった。

そう言えば対魔戦争以降いつだったかレミが街の北に研究所が出来たとか言ってた。
表向きは製薬会社とかの研究所を装っていたのかもしれない。

中は彼らが作り出した人造の魔獣が跋扈していた。

半分ぐらいが炎に弱かったのでレイジの炎刃斬で次々と焼却していった。

奥に入ると魔獣以外にもエミニオンの構成員達の『歓迎』を受けた。




レイジの振るった太刀が敵兵の右腕を切り飛ばした。

「た、助けてくれ!俺が悪かった!」

先程怒声と共に火炎放射器を向けてきた威勢はどこへやら、必死に命乞いを始めた。


思い出すのは先刻戦った少女のこと。
魚類を思わせる醜悪な魔獣に改造させられた悲運の娘。


こいつらはレミを攫った。

俺に瀕死の重傷を負わせた。

俺の街を破壊した。

顔馴染みだって何人かいたのに……!

魔獣までばら撒いて住む事すら出来なくした!!

あんな小さな娘まで実験に使った!!!

こいつらがいなければ!!!!



相手が罪もない人間であれば躊躇いも生じたろう。
だが、そんな者達に同情や憐憫の情を持ち合わせるほど、レイジは慈悲深くはなかった。


「助かりたいならあの街と住人全部を元に戻せ」


ヒュッ!


「俺が首を飛ばす前にな」

その言葉はガスマスクのような物を装着した頭が転がり落ちるのとほぼ同時だった。
今なら推理物に登場する復讐殺人の犯人達と気持ちが通じ合える気がする。


止めるどころか、自らも躊躇なく攻撃を行っているあたりサヤも同意見なのだろう。
もしかしたら過去にこのような邪な人間を殺めた事があるのかもしれない。






「そこまでだ!」


前からはエミニオンの構成員。
後ろには人造魔獣の群れ。
まともに戦うのは不利そうだ。

「へっへ、挟み撃ちだぜ!」

「サヤ、考えがあるんだ……ゴニョゴニョ」

「わかりました」




言うや否やレイジを前にし、2人並ぶようにして構成員の方に突貫していった。
火炎放射による攻撃を受けたが、超越者であるゆえに多少は耐える事が出来る。

敵兵を前にした瞬間、サヤが宙へ飛びあがった。

サヤが跳躍すると同時に、レイジが手近にいた構成員の喉笛を掻っ切った。
たちまち血が噴き出して周囲の構成員にかかる。

続いて着地したサヤが血のかかった構成員達を勢いよく蹴り飛ばす。



「いてて……おいお前らさっさと……」

グルルル……

けしかけようとした男を見て魔獣達がよだれを垂らしている。
醜悪な顔が人間と同様に笑みを浮かべたように見えた。



「俺特製『血乗り弁当』だ。ゆっくり味わえ」

「よ、よせ!!」

「ぎゃあああああ!!」

サメは獲物の血の匂いを嗅ぐと猛然と食らいつくと言うが、ここの魔獣にも似たような習性があったようだ。
ここまでに構成員を殺めた際、魔獣達がレイジ達への攻撃を止めて死骸にむしゃぶりついているのを見て思いついたのだ。

あるいは単に餌を与えられず、腹を空かせていただけかもしれないが。

「く、くそっ!」

食われまいと火炎放射で応戦する者もいるが、そういう者は背後から食いつかれたり、レイジ達の攻撃を受けたりした。
魔獣の方も食事中の隙をつかれてほぼ無抵抗のまま多数が討たれたり、中には『食料』の奪い合いで命を落とした者もいた。



・・・



「同士討ち作戦は成功だな」

魔獣の死骸と構成員の残骸の前でレイジはニッと笑った。
結局まともに向かって来たのは全体の4分の1にも満たなかった。





「レミッ!」

一際長いエスカレーターを登り、扉を開けるとそこに探し求めた妹の姿があった。

「待ってろ」


傍らのスイッチを押し、拘束具を外した。

「お兄ちゃん!」

自由になるやレミはレイジに抱きついてきた。
無理矢理こんな所に連れてこられてどんなに心細かっただろう。
レイジは優しく妹の頭を撫でた。

「お兄ちゃんその女の人は?」

「彼女はサヤ。俺を助けてくれた上に、レミを助ける手助けまでしてくれたんだ」

「はじめまして。レミさん」

「あ、あの、ありがとうございました」

サヤがお辞儀したのに続いて、レミがぺこりと会釈する。



その時、部屋の奥のドアが開いて一人の男が入ってきた。

白衣に身を包んだ老人。その姿は忘れようはずもない―――

「オグマ!!」

「侵入者か。ん?あの時の小僧ではないか。死んだと思ったが、悪運が強いようじゃな」

「そうだな。こうしてお前に一泡吹かせるチャンスが来たんだからな」

「知らぬ小娘もいるのう。まあいい、全員実験体にしてくれる!」



街でしたように、オグマの右手から電光が走る。
レイジが前に出てそれを受けると、すぐさまサヤがヒールで治療する。


「回復のイクシアか!」

「はあっ!」


レイジの袈裟懸けに振るった太刀はかわされたが、サヤの鉄拳が胸元を捕らえ、一瞬呼吸が困難になる。

「おのれ……!」

広範囲に光の粒子がばら撒かれたと思いきや、その粒子から電撃が発生しレイジとサヤを直撃した。


「まだまだ!」

レイジの突きがオグマの脇腹を掠め、サヤの拳が鳩尾に炸裂した。


「どうやら2対1では分が悪いようだな」

「図に乗るなぁ!エレキバースト!」


オグマが一際強力な電撃を放つ。


狙いはレイジでもサヤでもなく―――



「レミっ!!」

ただの人間でしかないレミがこれを受ければ黒焦げになって終わりだろう。
そう思い走り出したが、レイジの位置からでは間に合わなかった。




「きゃああああ!」

「サヤっ!」



無防備なレミの身代わりにサヤが雷に撃たれ、その身を焦がした。
サヤは煙を上げながらその場に倒れ込み、動かなくなった。


「ハハハ、まんまとかかりおったわ生意気な小娘めが。安心せい。貴様は後で治療して、ワシの部下の性処理に使ってやるわい。実験はその後じゃ!」

「……オグマァッ!!」

オグマの哄笑にレイジの怒りが最高潮に達し、復讐の鬼と化した。


「ははは。吠えろ吠えろ。それでワシに勝てると思うのか?」

レイジは言葉の代わりに、刀を水平に構えて突貫する事で返事をした。

「馬鹿め!!エレキバースト!!」


先程と同じ強力な電撃がレイジを襲う。

しかしレイジがダメージを受ける事は無かった。

何故なら彼は雷撃が発せられるのに合わせて予備の武器として腰に提げていた最初にサヤに貰った刀を投げて、それを避雷針にしたから。


「こ、小癪な……!」


オグマが次の技を繰り出す前に左腕に刀を差し込んだ。
そしてありったけの力を込めて、ぎちぎちと骨がきしむ音をさせながら捩じった。

凄まじい激痛にオグマが言葉にならない叫びをあげる。


「炎・刃・斬!!」


そしてダメ押しに刀から炎のイクシアを発動させ、内側から焼いていく。
街で嗅いだのと同じ、嫌な臭いが鼻腔へと舞い込んだ。

「ここまでが俺とレミへの仕打ちの分だ!そして……」

絶叫を発する顎に右の拳による全力の一発を見舞った。
オグマの口から歯が一本飛んだ。

「これがサヤの分!」


そして倒れたオグマを何度も何度も踏みつけた。
狙うは衝撃から人体を守る骨のない腹部と股間。

自分達の平和な日常を壊した代価を払わせるように。
そしてオグマの犠牲になった全ての人々の分の怒りと怨みを徹底的に刻み付けるように一切の容赦なく踏み続けた。

「ふーっ、ふーっ」

「もうそろそろ、とどめを刺す頃合いでしょう」

「サヤ!無事だったのか!?」

「はい。少し気を失ってましたが、先程ヒールで立てるくらいには……」


落ち着きを取り戻したレイジは眼下の老人を見下ろしながら言った。

「言いたい事があるならさっさと言え。待ってやる気はさらさらないんでな」

心臓を一突きにすべく、刃を下に向け下ろそうとする。

「レイジさん、危ない!」

「!!?」

サヤがレイジを突き飛ばしたその瞬間、先程まで立っていた場所で爆発が起きた。


「驚いたわ。随分と勘がいいのね」


入り口の方を向く。
そこに立っていたのはフード付きの薄手の服を着た、サヤと同じくらいに見える少女だった。

しかしその姿に似合わない凄みをいやでも感じる。


「おお!キサラ様!どうか私に代わりこやつらの御成敗を!」

思わぬ援軍に怪我や痛みもある程度忘れるほど歓喜しているのか、焼け焦げた左腕を抑えつつよろめきながらもオグマは立ち上がった。

しかしその少女・キサラは右手をオグマに向けた。
オグマの顔がみるみる恐怖に染まる。

「キ、キサラ様?お、お戯れを……」

「残念だけど戯れではないの。元々私はあなたの処分の為に来たのだから」



キサラの口から出た衝撃の言葉に悪魔の科学者は大口を開けて絶句した。



「さようなら無能な人間(オグマ)。これは総帥の決定だから、悪く思わないでね」

刹那、先程とは比べものにならない大爆発が起きた。
後には床に開いた大きな穴だけが残った。
跡形もなく消し飛んだのか、オグマの体は指一本として確認できなかった。



「さて、あなた達。私達の仲間になるつもりはないかしら?」

たった今仲間を殺した事など何も感じてないかのように、世間話でもするような口調でキサラは問いかけた。

「はい、と答えるとでも?」

虚勢だという事はレイジ自身が一番よく理解していた。
ただでさえオグマ相手に消耗していたレイジ達にオグマより強いと思われる彼女を倒せるとは思えない。
まして超越者ですらないレミを守りながらなど論外だ。

だがそれでも『はい』などと……街を滅ぼし、自分達にこんな仕打ちをした組織に下るなどと冗談でも言える筈が無かった。


「勇ましいわね。でも拒否権は無いのよ。あなた達が万全の状態だったとしても、ね」

その時、レイジ達の全身を痺れが襲った。

「この部屋に入った時から麻痺毒の霧を散布していたの。それを吸い込んだ以上、抵抗は不可能よ」





レミ、サヤの順に倒れていき、レイジも間も無く意識を失った。