ゆきの工房・ノベルのイクシア・Hシリーズ:二人の時間 ふたたび
ノベルのイクシア
Hシリーズ
二人の時間 ふたたび
「綺麗……」
八方を紺碧で満たされた空間で、サヤが目を輝かせて零した。
「私、水族館って初めてです。話には聞いたことがあったんですけど、いいものですね」
「俺も、子供の頃以来だけど……正直こうまで楽しめる場所だった記憶は無いよ。でも……」
レイジは一度言葉を切り
「サヤと一緒だからこそ、そう感じられるんだと思う」
「私も、レイジさんと一緒でなかったらここまで楽しめなかったと思います」
二人は今、水族館の海中トンネルコーナーにいた。
「本当に海の中にいるみたいです……」
このコーナーは上と左右は勿論のこと、足下も透明なガラスになっており、まさにサヤの言葉通りに海の中にいるような気分を存分に味わえる趣向である。
色鮮やかな魚達が海中を踊り、真下にはサンゴの森が佇んでいた。
「……にしても、今日は大胆だな。ずっと腕を巻き付けて」
「今日は特別ですから」
「そうだな」
客の数があまり多くないのもあってか、そういうことへの抵抗感が薄れているのだろう。
レイジも遠慮なくこの状況をじっくり味わうことにした。
ふと、ウミガメが2匹のんびりと泳いでいるのが目に入った。
「かわいいですね」
「ひょっとしたらカップルかもな」
不意に黒い影が落ちた。
見上げると大きなマンタが悠々と漂っていた。
その後、深海魚コーナーで光るクラゲや風変りな見た目の魚達を眺めていると、時計の盤上で2本の針が天を指した。
「そろそろ」
「何か食べたいものはあるかい?」
「レイジさんにお任せします」
「わかった」
「お待たせ。これでいいかな?」
「はい」
サヤは売店から買ってきた品を受け取るとさっそく口へと運んだ。
「おいしいです~」
「……」
ホットドッグを頬張っている彼女を見ているとレイジの胸に何とも言葉にしづらい感情がムクムクとこみ上げてきた。
「どうかしましたか?」
「い、いや……なんでも……」
少しどもりながら自分の分を胃に収め始めた。
「さて、これからどうするかな?」
「レイジさんが決めてください」
「そうか……」
食事を終え、次の行き先を決めかねていると……
『間も無くイルカショーが開演となります。ご予定の無い方は是非ご覧になってください』
と、計ったようにそんな館内放送が響き渡った。
「……行ってみるか?」
彼女は当然のごとく首を縦に振った。
派手な水飛沫と共に飛び出したイルカが輪をくぐり、飛び出した時と同様に水飛沫を立てて潜る。
それが3度繰り返されると、先程までの光景からは信じられない大勢の客の歓声と拍手が巻き起こる。
水面から顔を出し、おねだりをするイルカ達に女性係員がご褒美の魚を与えている。
「どなたかイルカと一緒に泳いでみませんか?」
その問いに当然のように、レイジは手を挙げた。
係員から渡されたドライスーツを着用し、プールへ入るとイルカたちが寄ってきた。
「ひゃっ!」
その中の一匹が鼻先でサヤの頬を突っついた。
「早速懐かれたみたいだな」
サヤが背に掴まるとゆっくりと泳ぎだした。
プール内をぐるりと一周し、元の場所へ戻ると再び拍手が鳴り響いた。
その後レイジも同じことを行い、ショーは無事フィナーレを迎えた。
ショーが終わり、残りのコーナーを巡り終えて建物を出る頃には日は沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。
「さあ、最後のシメといこうか」
え?と言わんばかりの表情のサヤがレイジの視線の先を見ると、無数の光を纏った円盤が聳え立っていた。
水族館に併設された観覧車である。
「わぁ~……」
生まれて初めて観覧車に乗った退魔士が、眼下に広がる建物や車のライトが織り成す夜景に夢中になっていた。
人々の営みによる灯達は星屑をばら撒いたように見えた。
そんな婚約者を見ていると、レイジの胸に温かな気持ちがあふれてきた。
(これからもサヤにはこんな風に喜んでもらいたいな……)
頂上まで来たところで突如ガタンという音がした。
間も無くゴンドラが停止し、観覧車の横のライトも眼下に広がる眩い夜景も全てが消え失せ漆黒の闇に包まれた。
「停電……でしょうか?」
「でも、悪くないシチュエーションだぞ。ほら」
レイジに促されたサヤが見上げると、そこには魔の樹海や告白の時を想起させる満天の星が瞬いていた。
「あ!」
流星が一つ、天から零れ落ちて消えた。
流れ星は2つ目、3つ目と続き、たちまち流星群となった。
「思わぬサプライズ……いえ、演出ですね」
「そうだな」
止むことなく降り注ぐ光の豪雨の中、すっかりそれに見入っているサヤを抱き寄せ、レイジは口づけをした。
「もう……レイジさんたら……」
「サヤだって、濡れてるんじゃないのか?」
「……バレてしまいましたか?」
照れくさそうに微笑んだ。
「レイジさん、食事の時もいやらしいことを考えてましたよね」
「あはは……こっちもお見通しか」
これまで幾度となく愛し合っただけに、お互いのことは身も心も知り尽くしていた。
「でも、そんな所も含めて私はレイジさんのことを愛してますから」
今度はサヤの方から唇を重ねる。
やがて舌を絡めだし、互いの口内を味わい始める。
「ん……ぷはぁっ!」
息が続かなくなった両者は口を離し、胸一杯に空気を吸い込む。
「……んじゃ、そろそろいくか」
「はい……」
衣服を反対側の座席に畳んで置き、一糸纏わぬ姿になる。
レイジはサヤの胸に両手を置き、両の掌に貧乳でも巨乳でもない感触を味わいながら座席に押さえつける格好で事を始める。
「あっ……レイジさ……んむぅっ!」
彼女の言葉をキスで遮る
「なんだか今日のレイジさん……いつもと少し……」
「そういうサヤだって……普段よりも締め付けが……!!」
「この場所の……せいかも……しれませ……んあぁっ!」
「あんまり気持ちいいから、もっともっと突いてみたくなるよ」
「はいぃ……どうぞご存分に……」
淫らな音と喘ぎ声を響かせることしばし、天上の交わりに終止符が打たれようとするのを双方が無意識に感じ取った。
「サヤ……」
「はい……遠慮なく……いつものように……!!」
「いや、今日はそういう気分じゃない」
膣から引き抜いた瞬間に果て、サヤの全身を座席もろとも己の子種でコーティングした
サヤもレイジの想いを浴びた瞬間に絶頂し、体をのけぞらせた。
「汚しちゃいましたね……」
「気にすることはないさ」
「そうですね。でも、どうして今日は外に?」
「うーん……まあ、ただの気まぐれってことで」
実際のところ本当にただの気まぐれであったのだからそれ以外に答えようがなかった。
まるで二人の情事の終わりを待っていたかのようなタイミングでゴンドラが再び動き出した。
ややあって服を着、観覧車を降りた瞬間、辺り全てが闇に塗りつぶされた。
『アークVR、機能停止。機能停止』
無機質な機械音声と共に二人の視界から闇は消え去り、何度か見た景色が広がる。
「ふーっ、いやぁ凄いクオリティだったなぁ」
「はい。とても機械で作られたものとは思えませんでした」
「ああ、こいつは最高の発明だよ」
振り返り、そこにある人ひとり楽々入れるサイズの円筒状の装置を掌で軽く叩きながらレイジが心からの称賛を述べた。
アークVR。
これは視覚や聴覚だけでなく、味覚や嗅覚に満腹感、射精やオーガズムの感覚まで完璧に再現するという優れものだ。
数多の娯楽施設が破壊された上に魔獣が闊歩する今の世の中で、恋人達が気軽にデートを楽しめるようにとギンが開発したとのこと。
既に人体実験までは済ませたとのことだが、カップルの意見が聞きたいというギンの依頼でデートがてら、この装置のテストを買って出たのだ。
つまり、ここまでの光景や出来事は全てこの機械で再現されたものだったというわけである。
あくまでも感覚だけを再現するので、実際には射精は行われておらず、レイジのパンツの中がべとべとになったりはしていない。
製作者曰く、今回のテストに使われたのは水族館バージョンだが、他にも遊園地、海、森林などもある上に、新バージョンを鋭意開発中らしい。
「んぁ……終わったか……」
椅子に座って船をこいでいた当の製作者が声をかけてきた。
「人にテストさせといて、呑気なもんだなぁ」
「すまんすまん。昨夜徹夜してのぉ」
老人は両手で目をこすり、その後両腕を上へ伸ばした。
「念のため非常停止装置を組み込んではおいたが、問題なかったようじゃの」
「ああ」
「で、どうじゃったかの?」
「と、とても楽しかったです」
頬を朱に染めつつ、サヤが照れくさそうに感想を述べた。
終盤の『展開』を思い出しているのだろう。
サヤの返答を聞いたギンはそうかそうかと満足げに頷いた。
ちなみに具体的に何があったかは使用者以外に知られない仕様になっているので、この事実を知っているのは後にも先にもレイジとサヤだけである。
ぐうううううぅぅぅぅ……
空気を読まない虫が2匹、盛大に鳴き声を上げた。
テストの為に昼食をとらずに来るようにと依頼されていたので2人とも空腹だったのだ。
「お、お腹空いたな……」
右手ですきっ腹をさすりながらレイジが言った。
「あくまで『満腹感』を再現しただけじゃからの。実際には腹の中は空っぽじゃから装置が止まればそりゃそうなるわい」
事前にその辺の説明は受けていた。
使用者が夢中になりすぎての餓死や衰弱死を防止するために最長でも7時間で自動停止する仕様になっているということも。
「今日の夕食担当がレミさんでよかったです……」
「そんなに空腹じゃ、料理なんて無理そうだしな」
「よかったらまた来るといい。お前さん達ならいつでも無料で貸し出すぞ」
「ま、考えとくよ」
ギンに別れを告げ、二人は夕日に照らされた街並みを通り、帰宅した。
その日の二人はいつもより箸が進んだとか、進まなかったとか。
そしてアークVRは数か月後に受注生産という形で販売されたが、方々から注文が殺到したという。
八方を紺碧で満たされた空間で、サヤが目を輝かせて零した。
「私、水族館って初めてです。話には聞いたことがあったんですけど、いいものですね」
「俺も、子供の頃以来だけど……正直こうまで楽しめる場所だった記憶は無いよ。でも……」
レイジは一度言葉を切り
「サヤと一緒だからこそ、そう感じられるんだと思う」
「私も、レイジさんと一緒でなかったらここまで楽しめなかったと思います」
二人は今、水族館の海中トンネルコーナーにいた。
「本当に海の中にいるみたいです……」
このコーナーは上と左右は勿論のこと、足下も透明なガラスになっており、まさにサヤの言葉通りに海の中にいるような気分を存分に味わえる趣向である。
色鮮やかな魚達が海中を踊り、真下にはサンゴの森が佇んでいた。
「……にしても、今日は大胆だな。ずっと腕を巻き付けて」
「今日は特別ですから」
「そうだな」
客の数があまり多くないのもあってか、そういうことへの抵抗感が薄れているのだろう。
レイジも遠慮なくこの状況をじっくり味わうことにした。
ふと、ウミガメが2匹のんびりと泳いでいるのが目に入った。
「かわいいですね」
「ひょっとしたらカップルかもな」
不意に黒い影が落ちた。
見上げると大きなマンタが悠々と漂っていた。
その後、深海魚コーナーで光るクラゲや風変りな見た目の魚達を眺めていると、時計の盤上で2本の針が天を指した。
「そろそろ」
「何か食べたいものはあるかい?」
「レイジさんにお任せします」
「わかった」
「お待たせ。これでいいかな?」
「はい」
サヤは売店から買ってきた品を受け取るとさっそく口へと運んだ。
「おいしいです~」
「……」
ホットドッグを頬張っている彼女を見ているとレイジの胸に何とも言葉にしづらい感情がムクムクとこみ上げてきた。
「どうかしましたか?」
「い、いや……なんでも……」
少しどもりながら自分の分を胃に収め始めた。
「さて、これからどうするかな?」
「レイジさんが決めてください」
「そうか……」
食事を終え、次の行き先を決めかねていると……
『間も無くイルカショーが開演となります。ご予定の無い方は是非ご覧になってください』
と、計ったようにそんな館内放送が響き渡った。
「……行ってみるか?」
彼女は当然のごとく首を縦に振った。
派手な水飛沫と共に飛び出したイルカが輪をくぐり、飛び出した時と同様に水飛沫を立てて潜る。
それが3度繰り返されると、先程までの光景からは信じられない大勢の客の歓声と拍手が巻き起こる。
水面から顔を出し、おねだりをするイルカ達に女性係員がご褒美の魚を与えている。
「どなたかイルカと一緒に泳いでみませんか?」
その問いに当然のように、レイジは手を挙げた。
係員から渡されたドライスーツを着用し、プールへ入るとイルカたちが寄ってきた。
「ひゃっ!」
その中の一匹が鼻先でサヤの頬を突っついた。
「早速懐かれたみたいだな」
サヤが背に掴まるとゆっくりと泳ぎだした。
プール内をぐるりと一周し、元の場所へ戻ると再び拍手が鳴り響いた。
その後レイジも同じことを行い、ショーは無事フィナーレを迎えた。
ショーが終わり、残りのコーナーを巡り終えて建物を出る頃には日は沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。
「さあ、最後のシメといこうか」
え?と言わんばかりの表情のサヤがレイジの視線の先を見ると、無数の光を纏った円盤が聳え立っていた。
水族館に併設された観覧車である。
「わぁ~……」
生まれて初めて観覧車に乗った退魔士が、眼下に広がる建物や車のライトが織り成す夜景に夢中になっていた。
人々の営みによる灯達は星屑をばら撒いたように見えた。
そんな婚約者を見ていると、レイジの胸に温かな気持ちがあふれてきた。
(これからもサヤにはこんな風に喜んでもらいたいな……)
頂上まで来たところで突如ガタンという音がした。
間も無くゴンドラが停止し、観覧車の横のライトも眼下に広がる眩い夜景も全てが消え失せ漆黒の闇に包まれた。
「停電……でしょうか?」
「でも、悪くないシチュエーションだぞ。ほら」
レイジに促されたサヤが見上げると、そこには魔の樹海や告白の時を想起させる満天の星が瞬いていた。
「あ!」
流星が一つ、天から零れ落ちて消えた。
流れ星は2つ目、3つ目と続き、たちまち流星群となった。
「思わぬサプライズ……いえ、演出ですね」
「そうだな」
止むことなく降り注ぐ光の豪雨の中、すっかりそれに見入っているサヤを抱き寄せ、レイジは口づけをした。
「もう……レイジさんたら……」
「サヤだって、濡れてるんじゃないのか?」
「……バレてしまいましたか?」
照れくさそうに微笑んだ。
「レイジさん、食事の時もいやらしいことを考えてましたよね」
「あはは……こっちもお見通しか」
これまで幾度となく愛し合っただけに、お互いのことは身も心も知り尽くしていた。
「でも、そんな所も含めて私はレイジさんのことを愛してますから」
今度はサヤの方から唇を重ねる。
やがて舌を絡めだし、互いの口内を味わい始める。
「ん……ぷはぁっ!」
息が続かなくなった両者は口を離し、胸一杯に空気を吸い込む。
「……んじゃ、そろそろいくか」
「はい……」
衣服を反対側の座席に畳んで置き、一糸纏わぬ姿になる。
レイジはサヤの胸に両手を置き、両の掌に貧乳でも巨乳でもない感触を味わいながら座席に押さえつける格好で事を始める。
「あっ……レイジさ……んむぅっ!」
彼女の言葉をキスで遮る
「なんだか今日のレイジさん……いつもと少し……」
「そういうサヤだって……普段よりも締め付けが……!!」
「この場所の……せいかも……しれませ……んあぁっ!」
「あんまり気持ちいいから、もっともっと突いてみたくなるよ」
「はいぃ……どうぞご存分に……」
淫らな音と喘ぎ声を響かせることしばし、天上の交わりに終止符が打たれようとするのを双方が無意識に感じ取った。
「サヤ……」
「はい……遠慮なく……いつものように……!!」
「いや、今日はそういう気分じゃない」
膣から引き抜いた瞬間に果て、サヤの全身を座席もろとも己の子種でコーティングした
サヤもレイジの想いを浴びた瞬間に絶頂し、体をのけぞらせた。
「汚しちゃいましたね……」
「気にすることはないさ」
「そうですね。でも、どうして今日は外に?」
「うーん……まあ、ただの気まぐれってことで」
実際のところ本当にただの気まぐれであったのだからそれ以外に答えようがなかった。
まるで二人の情事の終わりを待っていたかのようなタイミングでゴンドラが再び動き出した。
ややあって服を着、観覧車を降りた瞬間、辺り全てが闇に塗りつぶされた。
『アークVR、機能停止。機能停止』
無機質な機械音声と共に二人の視界から闇は消え去り、何度か見た景色が広がる。
「ふーっ、いやぁ凄いクオリティだったなぁ」
「はい。とても機械で作られたものとは思えませんでした」
「ああ、こいつは最高の発明だよ」
振り返り、そこにある人ひとり楽々入れるサイズの円筒状の装置を掌で軽く叩きながらレイジが心からの称賛を述べた。
アークVR。
これは視覚や聴覚だけでなく、味覚や嗅覚に満腹感、射精やオーガズムの感覚まで完璧に再現するという優れものだ。
数多の娯楽施設が破壊された上に魔獣が闊歩する今の世の中で、恋人達が気軽にデートを楽しめるようにとギンが開発したとのこと。
既に人体実験までは済ませたとのことだが、カップルの意見が聞きたいというギンの依頼でデートがてら、この装置のテストを買って出たのだ。
つまり、ここまでの光景や出来事は全てこの機械で再現されたものだったというわけである。
あくまでも感覚だけを再現するので、実際には射精は行われておらず、レイジのパンツの中がべとべとになったりはしていない。
製作者曰く、今回のテストに使われたのは水族館バージョンだが、他にも遊園地、海、森林などもある上に、新バージョンを鋭意開発中らしい。
「んぁ……終わったか……」
椅子に座って船をこいでいた当の製作者が声をかけてきた。
「人にテストさせといて、呑気なもんだなぁ」
「すまんすまん。昨夜徹夜してのぉ」
老人は両手で目をこすり、その後両腕を上へ伸ばした。
「念のため非常停止装置を組み込んではおいたが、問題なかったようじゃの」
「ああ」
「で、どうじゃったかの?」
「と、とても楽しかったです」
頬を朱に染めつつ、サヤが照れくさそうに感想を述べた。
終盤の『展開』を思い出しているのだろう。
サヤの返答を聞いたギンはそうかそうかと満足げに頷いた。
ちなみに具体的に何があったかは使用者以外に知られない仕様になっているので、この事実を知っているのは後にも先にもレイジとサヤだけである。
ぐうううううぅぅぅぅ……
空気を読まない虫が2匹、盛大に鳴き声を上げた。
テストの為に昼食をとらずに来るようにと依頼されていたので2人とも空腹だったのだ。
「お、お腹空いたな……」
右手ですきっ腹をさすりながらレイジが言った。
「あくまで『満腹感』を再現しただけじゃからの。実際には腹の中は空っぽじゃから装置が止まればそりゃそうなるわい」
事前にその辺の説明は受けていた。
使用者が夢中になりすぎての餓死や衰弱死を防止するために最長でも7時間で自動停止する仕様になっているということも。
「今日の夕食担当がレミさんでよかったです……」
「そんなに空腹じゃ、料理なんて無理そうだしな」
「よかったらまた来るといい。お前さん達ならいつでも無料で貸し出すぞ」
「ま、考えとくよ」
ギンに別れを告げ、二人は夕日に照らされた街並みを通り、帰宅した。
その日の二人はいつもより箸が進んだとか、進まなかったとか。
そしてアークVRは数か月後に受注生産という形で販売されたが、方々から注文が殺到したという。