ゆきの工房・ノベルのイクシア・EXシリーズ:退魔士竹取物語
ノベルのイクシア
EXシリーズ
退魔士竹取物語
今は昔、竹取の翁(おきな)いうものありけり。
彼は竹を切って生計を立てていたが、ある日金色に輝く竹を見つける。
切ってみると中から美しい女の子が現れた。
『輝夜(かぐや)』と名付けられたその娘を拾ってから、翁は金の詰まった竹を得るようになった。
そうして国一番の長者となった彼と国一番と言える程の美女に成長した輝夜の評判は瞬く間に広まった。
翁の屋敷には輝夜との求婚の為に蟻の如く男達が押し寄せた。
しかし輝夜はそのどれにも応じる事は無かった。
求婚に来た男達の中には高貴な身分の者もいた。
輝夜は結婚を条件に彼らに様々な難題を課した。
しかし誰一人として成し遂げる者はいなかった。
時の右大臣は死後の世界にある水晶を偽造し、輝夜を欺こうとしたが報酬が支払われないと千日以上働かされた匠達が押し掛けたため失敗。
そしてその報酬の支払いで破産した。
ある武将は燃え盛る炎の谷の奥底に住まう竜の逆鱗を取らんとして大火傷を負い、二度と戦場(いくさば)に出られぬ体となって戻ってきた。
ある貴族は開かずの扉に守られた高き塔の中にある、永遠の輪を求めてどうにか中に入ろうと塔をよじ登ったが転落し、あえなく命を落とした。
そしてついには帝(みかど)までもが輝夜の虜となった。
帝の求婚にすらのらりくらりとする輝夜。
ある夜、そんな輝夜の下へ一人の男が訪れた。
腰に業物、背に弓を背負った月光のような銀色の髪を後ろで一本に束ねた美丈夫であった。
「それがしは諸国を巡り剣の腕を磨く武芸者。かつてあなた様がさる武将に求めた竜の逆鱗。私が持ち帰った暁には是非ご結婚を」
「よいでおじゃる」
「ですが、その前に間近でお顔を拝見出来ないでしょうか」
「ちこう寄れ」
姫に促され男は近づいた。
「なるほど。確かに美しい。数多の男達を手玉に取り破滅させ、帝さえも誑かしたのもうなづけるというもの」
「何……!!?」
男の物言いに眉をひそめた瞬間、輝夜の美しい顔が苦痛に歪められた。
至近距離での光速の居合によって腰から肩にかけて切り裂かれたからだ。
だがその血飛沫の色は人のものでは決してあり得ぬ、毒々しい紫色であった。
「ガ……はぁっ……き、貴様……何を……」
「本性を現したな化け物……いや魔王カグヤ!お前に近づくために『こんなもの』をする羽目になって苦しかったぞ」
言いながら男は『胸に巻き付けていたさらし』を解いた。
「貴様、女か!?しかし、女と言えどもわらわの魅了の力に抗えるはずは……」
彼……否彼女は懐から青く輝く石を取り出して見せた。
「賢者の石と言ってな。これさえあれば、いかなる魅了も受け付けぬという訳だ」
「おのれ……!!」
輝夜は美しい顔を憎悪にゆがめて歯噛みする。
「退魔士・覇堂サクヤ!左大臣・蓮部殿の依頼により貴様を討つ!」
「ほざけ小娘が!!」
輝夜の目が真っ赤に輝き、醜く歪んだ口から猛毒の息が吐き出された。
豪華な屋敷の内装が息に触れたとたんに腐食していく。
しかしサクヤを飲み込もうとした瞬間、猛毒の息はあまさず跳ね返された。
「な……何故……!?」
「覇堂家の石細工職人が精魂込めて作り上げた極上の鏡石だ。いかなる超常の力も確実に跳ね返す代物だ」
「く……この場は貴様に預けてくれるが、いずれその首刈り取ってくれる!!」
輝夜こと魔王カグヤは不利を悟り、その場から人では到底出せぬ速さで逃げおおせようとした。
それを見たサクヤは背中の弓を取り弦を引き絞った。
何も無い筈の空間に銀光の矢が出現した。
「覇堂弓術奥義……五月雨彗星!!」
弓から放たれたいくつもの箒星がカグヤの背に殺到した。
麗しき魔王はこの世のものとは思えぬおぞましい叫びを上げながら、絶命した。
そして肌は土色に変色し、爪や牙が伸び、髪はちぢれ白くなった。
それが国中の男を誑かした魔獣の正体であり、末路であった。
「……こうして都に平和が戻り、正気に戻った竹取の翁も帝も幸せに過ごし、覇堂サクヤはまた魔獣に苦しむ人々を救うために旅に出るのでした」
「まさかあの竹取物語にそんな裏があったなんてな。しかもサヤの先祖が関わっていたなんて」
話を聞き終えたレイジが感心と驚嘆のないまぜになった声を漏らす。
蓮部探偵事務所のとある夜、寝付けなかったレイジはサヤの部屋へ行き、彼女から覇堂家に関する昔話として今の話を聞いていたのだ。
「小さい頃兄様によく聞かせてもらいました。私の好きなお話です」
「そうなんだ……」
「そしてこの話を基にレイジさん達も知っている竹取物語が生まれたのです。またこの時サクヤが手にしていたのは天下五剣の内の一振りだったそうです。全部兄様の受け売りですけどね」
おどけたような笑顔でサヤが言う。
「いや、面白い話だったよサヤ。ありがとう」
「どういたしまして」
「でも最後に1つだけ。サクヤにカグヤ討伐の依頼をした左大臣の蓮部ってもしかして……」
「まさか……でも……あり得ないとは言い切れませんね……」
「へっくしょん!!今日は冷えるな」
蓮部探偵事務所の1F、パソコンに向かうクウヤが寒さに身を震わせた。
彼は竹を切って生計を立てていたが、ある日金色に輝く竹を見つける。
切ってみると中から美しい女の子が現れた。
『輝夜(かぐや)』と名付けられたその娘を拾ってから、翁は金の詰まった竹を得るようになった。
そうして国一番の長者となった彼と国一番と言える程の美女に成長した輝夜の評判は瞬く間に広まった。
翁の屋敷には輝夜との求婚の為に蟻の如く男達が押し寄せた。
しかし輝夜はそのどれにも応じる事は無かった。
求婚に来た男達の中には高貴な身分の者もいた。
輝夜は結婚を条件に彼らに様々な難題を課した。
しかし誰一人として成し遂げる者はいなかった。
時の右大臣は死後の世界にある水晶を偽造し、輝夜を欺こうとしたが報酬が支払われないと千日以上働かされた匠達が押し掛けたため失敗。
そしてその報酬の支払いで破産した。
ある武将は燃え盛る炎の谷の奥底に住まう竜の逆鱗を取らんとして大火傷を負い、二度と戦場(いくさば)に出られぬ体となって戻ってきた。
ある貴族は開かずの扉に守られた高き塔の中にある、永遠の輪を求めてどうにか中に入ろうと塔をよじ登ったが転落し、あえなく命を落とした。
そしてついには帝(みかど)までもが輝夜の虜となった。
帝の求婚にすらのらりくらりとする輝夜。
ある夜、そんな輝夜の下へ一人の男が訪れた。
腰に業物、背に弓を背負った月光のような銀色の髪を後ろで一本に束ねた美丈夫であった。
「それがしは諸国を巡り剣の腕を磨く武芸者。かつてあなた様がさる武将に求めた竜の逆鱗。私が持ち帰った暁には是非ご結婚を」
「よいでおじゃる」
「ですが、その前に間近でお顔を拝見出来ないでしょうか」
「ちこう寄れ」
姫に促され男は近づいた。
「なるほど。確かに美しい。数多の男達を手玉に取り破滅させ、帝さえも誑かしたのもうなづけるというもの」
「何……!!?」
男の物言いに眉をひそめた瞬間、輝夜の美しい顔が苦痛に歪められた。
至近距離での光速の居合によって腰から肩にかけて切り裂かれたからだ。
だがその血飛沫の色は人のものでは決してあり得ぬ、毒々しい紫色であった。
「ガ……はぁっ……き、貴様……何を……」
「本性を現したな化け物……いや魔王カグヤ!お前に近づくために『こんなもの』をする羽目になって苦しかったぞ」
言いながら男は『胸に巻き付けていたさらし』を解いた。
「貴様、女か!?しかし、女と言えどもわらわの魅了の力に抗えるはずは……」
彼……否彼女は懐から青く輝く石を取り出して見せた。
「賢者の石と言ってな。これさえあれば、いかなる魅了も受け付けぬという訳だ」
「おのれ……!!」
輝夜は美しい顔を憎悪にゆがめて歯噛みする。
「退魔士・覇堂サクヤ!左大臣・蓮部殿の依頼により貴様を討つ!」
「ほざけ小娘が!!」
輝夜の目が真っ赤に輝き、醜く歪んだ口から猛毒の息が吐き出された。
豪華な屋敷の内装が息に触れたとたんに腐食していく。
しかしサクヤを飲み込もうとした瞬間、猛毒の息はあまさず跳ね返された。
「な……何故……!?」
「覇堂家の石細工職人が精魂込めて作り上げた極上の鏡石だ。いかなる超常の力も確実に跳ね返す代物だ」
「く……この場は貴様に預けてくれるが、いずれその首刈り取ってくれる!!」
輝夜こと魔王カグヤは不利を悟り、その場から人では到底出せぬ速さで逃げおおせようとした。
それを見たサクヤは背中の弓を取り弦を引き絞った。
何も無い筈の空間に銀光の矢が出現した。
「覇堂弓術奥義……五月雨彗星!!」
弓から放たれたいくつもの箒星がカグヤの背に殺到した。
麗しき魔王はこの世のものとは思えぬおぞましい叫びを上げながら、絶命した。
そして肌は土色に変色し、爪や牙が伸び、髪はちぢれ白くなった。
それが国中の男を誑かした魔獣の正体であり、末路であった。
「……こうして都に平和が戻り、正気に戻った竹取の翁も帝も幸せに過ごし、覇堂サクヤはまた魔獣に苦しむ人々を救うために旅に出るのでした」
「まさかあの竹取物語にそんな裏があったなんてな。しかもサヤの先祖が関わっていたなんて」
話を聞き終えたレイジが感心と驚嘆のないまぜになった声を漏らす。
蓮部探偵事務所のとある夜、寝付けなかったレイジはサヤの部屋へ行き、彼女から覇堂家に関する昔話として今の話を聞いていたのだ。
「小さい頃兄様によく聞かせてもらいました。私の好きなお話です」
「そうなんだ……」
「そしてこの話を基にレイジさん達も知っている竹取物語が生まれたのです。またこの時サクヤが手にしていたのは天下五剣の内の一振りだったそうです。全部兄様の受け売りですけどね」
おどけたような笑顔でサヤが言う。
「いや、面白い話だったよサヤ。ありがとう」
「どういたしまして」
「でも最後に1つだけ。サクヤにカグヤ討伐の依頼をした左大臣の蓮部ってもしかして……」
「まさか……でも……あり得ないとは言い切れませんね……」
「へっくしょん!!今日は冷えるな」
蓮部探偵事務所の1F、パソコンに向かうクウヤが寒さに身を震わせた。