ゆきの工房・ノベルのイクシア・本編シリーズ:銀髪鬼と運命の悪戯
ノベルのイクシア
本編シリーズ
銀髪鬼と運命の悪戯
封魔の洞窟の最深部。
10メートルはありそうな大きな屏風のある一室に銀髪の美丈夫がいた。
「そんな……まさか……」
彼を見た瞬間、サヤの顔が驚愕に引きつった。
しかし、彼女が次に発した一言はそれと同等かそれ以上に他の3人を震撼させた。
「兄様!」
「なんだって!?」
「サヤのお兄さんって行方不明になってた!?」
「サヤ……もしやエミニオンに対抗し魔石を集めていたのは……」
「兄様、何故その事を?」
「なるほどな。ならば先に伝えておくべきだろうな」
カイは語った。
呪いの詩(ジャバウォック)という呪縛により心ならずもエミニオンの四天王となったこと。
光の魔石が既にここにないこと。
対魔戦争の結末。
魔神とも魔獣とも異なる魔王という存在。
そして四天王にして魔王のアリスこそが今の自分が置かれている状況の元凶である事などを。
続々と出てくる驚愕の事実に、レイジ達は眩暈を覚えそうな感覚に襲われた。
「だが俺もただ黙って奴に従っていたわけではない。ここにある白銀水晶と呼ばれる進化の核を探していたんだ。それさえあれば呪いの詩を……」
「随分物騒な事を考えてくれたじゃない、カイ」
聞き覚えのある女の声がこだましたと思うと、カイの背後に見覚えのある闇の穴が出現し、一人の女性が現れた。
金色の髪、童話の主人公のような服。
まさしく絶望の街で出会ったエミニオンの四天王の一人・アリスであった。
「今まで言わなかったけど、呪いの詩を付与したあなたの行動は全部筒抜けなのよ。こうなった以上、お遊びはおしまい。カイ、今すぐあの連中を殺しなさい」
「くっ……身体……が……っ!!」
突如カイが苦悶の表情を浮かべた。
「私は一足先にエミニオン本部へ戻るけど、カイとあなた達どちらが勝つのか楽しみにしてるわ」
それだけを言い残し、アリスの姿は再び闇の穴に消えた。
「どうするサヤ?」
カイが聞きしに勝る強者だという事は本人を前にして自ずと感じ取れた。
正直、殺さずに事を収められる自信は全く無い。
万に一つ可能だったとしても、五体満足では済まないだろう。
「決まっています。ここで倒れるわけにはいきません!」
「……やっと会えたお兄さんだけど、いいのね?」
「……兄様もそれを望んでいる筈です」
「なら、俺達のやる事は1つだ!」
「ええ!!」
カイが鉤爪を振りかざして突撃して来たのは、レイジ達が決意を固めたその直後だった。
「重撃斬!!」
「コンビネーションショット!!」
「フリーズアロー!!」
三位一体の攻撃がカイに殺到するが、彼は掠り傷一つ追っていなかった。
「そんな!!?」
「全く効かないぞ!!?」
「金剛不壊。防御力を大幅に上げる兄様の技です」
サヤの言葉と同時に、カイが何やら力を貯めるような動作を始めた。
「いけません!皆さん、防御してください!!」
サヤに言われるままに全員が防御するのと同時に、カイの爪が目にも止まらぬ速度でレイジ達を薙ぎ払った。
同じ四天王のセキトやキサラのものよりも数段強力な攻撃であった。
「くぅっ……!!今のは……」
「怪力乱神と紫電一閃を使い、魔狼爪を放つ。一度に多数の敵を薙ぎ払う時の兄様の手です」
即座にレミがヒールライトをかけたが、焼け石に水の感がある。
ガードしてこれでは、サヤの指示が遅れていたらと思うとぞっとする。
……などと考えている間に、カイがレミのすぐ傍に迫り龍の如き強烈な一撃を叩き込んだ。
小さな体が舞い上がり、木製の柵に叩きつけられる。
「レミッ!」
龍爪撃。現在のカイが用いる最強の技を食らったレミは起き上がる気配が無い。
駆け寄ろうとしたレイジにも容赦なく爪の一撃を食らわせた。
「く……あ……」
見れば既にカイはサヤに肉薄し、その爪を振り下ろそうとしていた。
回復の出来る者を優先的に落とそうという考えだろう。
急いで駆け寄ろうとするが、そこでレイジはある異変に気付いた。
彼の振り上げた腕がプルプルと震えたまま動かないのだ。
まるで見えない何かが腕を押し留めているかのように。
(まさか、カイが抵抗を……!?)
そうだ、彼だってただ一人の肉親であるサヤを傷つけることを是とする筈が無い。
その意思は汲まなければならない。
「こっちへ来い!」
怒声と共に以前サヤと交わった時に体得した彼女のイクシア・風刃をカイに放った。
さしたるダメージにはならなかったが、怒らせるのには十分だったらしく猛然と突っ込んできた。
再び鉤爪を振り上げ、龍爪撃を繰り出そうとする。
その時、無から生み出された岩石がカイの頭頂部に炸裂し、体勢を崩した。
「私だって……少しはいいとこ見せないとね!」
「サンキュー、カレン!虚空閃!!」
レイジの抜刀により発生した斬撃の渦がカイを切り裂きながら吹き飛ばす。
飛んで行った先にはサヤが拳を構えて待っていた。
「霊峰!!」
サヤの白く輝く闘気を纏う拳がカイの胸倉を捕らえ、その体が床をゴロゴロと転がっていく。
「ぐ……ぐううぅ……!!サヤ……」
「兄様!?」
今の一撃が呪いの詩に何らかの影響を与えたのだろうか?
そこには先程までのカイがいた。
「すまないな……お前をほったらかしにしていた挙句、今はこの体たらく。せめて、自分の過失は自分で拭う……!!」
言い終わるや否や以前クウヤが見せたものよりは小規模ながらカイを中心に爆発が起こった。
「自爆したの……?」
呆然とした表情のカレンがつぶやく。
煙が晴れると、そこには傷だらけのカイが横たわっており、その体から闇のように黒い蛇のような竜のような魔獣が生えるように出現した。
「こいつが……呪いの詩!?」
「来ますよ!レイジさん構え……て……」
レイジを見ると、刀を握ったまま顔を伏せプルプル震えていた。
思い出すのは両親を魔獣に殺された時の事、そしてオグマにレミを連れ去られた時のこと。
(やっとサヤが再会できたのに……こんな奴の為に……!!)
全身を焼き尽くすような怒りに、心臓の鼓動がいつも以上に速く大きくなっている気がする。
「……うあああああああ!!!」
レイジが咆哮と共に刀を振るう。
虚空閃を遥かに凌ぐ剣圧と速度の……『神風』とでも呼ぶべき一太刀の前に覇堂家の兄妹に不幸をもたらす呪いの化身は断末魔と共に一刀両断にされた。
「今のって……」
「レイジさんの新しいイクシア……」
サヤがつぶやいた瞬間、糸が切れたようにレイジがその場に倒れ込んだ。
「レイジさん!兄様!」
「レミちゃん、大丈夫!?」
10メートルはありそうな大きな屏風のある一室に銀髪の美丈夫がいた。
「そんな……まさか……」
彼を見た瞬間、サヤの顔が驚愕に引きつった。
しかし、彼女が次に発した一言はそれと同等かそれ以上に他の3人を震撼させた。
「兄様!」
「なんだって!?」
「サヤのお兄さんって行方不明になってた!?」
「サヤ……もしやエミニオンに対抗し魔石を集めていたのは……」
「兄様、何故その事を?」
「なるほどな。ならば先に伝えておくべきだろうな」
カイは語った。
呪いの詩(ジャバウォック)という呪縛により心ならずもエミニオンの四天王となったこと。
光の魔石が既にここにないこと。
対魔戦争の結末。
魔神とも魔獣とも異なる魔王という存在。
そして四天王にして魔王のアリスこそが今の自分が置かれている状況の元凶である事などを。
続々と出てくる驚愕の事実に、レイジ達は眩暈を覚えそうな感覚に襲われた。
「だが俺もただ黙って奴に従っていたわけではない。ここにある白銀水晶と呼ばれる進化の核を探していたんだ。それさえあれば呪いの詩を……」
「随分物騒な事を考えてくれたじゃない、カイ」
聞き覚えのある女の声がこだましたと思うと、カイの背後に見覚えのある闇の穴が出現し、一人の女性が現れた。
金色の髪、童話の主人公のような服。
まさしく絶望の街で出会ったエミニオンの四天王の一人・アリスであった。
「今まで言わなかったけど、呪いの詩を付与したあなたの行動は全部筒抜けなのよ。こうなった以上、お遊びはおしまい。カイ、今すぐあの連中を殺しなさい」
「くっ……身体……が……っ!!」
突如カイが苦悶の表情を浮かべた。
「私は一足先にエミニオン本部へ戻るけど、カイとあなた達どちらが勝つのか楽しみにしてるわ」
それだけを言い残し、アリスの姿は再び闇の穴に消えた。
「どうするサヤ?」
カイが聞きしに勝る強者だという事は本人を前にして自ずと感じ取れた。
正直、殺さずに事を収められる自信は全く無い。
万に一つ可能だったとしても、五体満足では済まないだろう。
「決まっています。ここで倒れるわけにはいきません!」
「……やっと会えたお兄さんだけど、いいのね?」
「……兄様もそれを望んでいる筈です」
「なら、俺達のやる事は1つだ!」
「ええ!!」
カイが鉤爪を振りかざして突撃して来たのは、レイジ達が決意を固めたその直後だった。
「重撃斬!!」
「コンビネーションショット!!」
「フリーズアロー!!」
三位一体の攻撃がカイに殺到するが、彼は掠り傷一つ追っていなかった。
「そんな!!?」
「全く効かないぞ!!?」
「金剛不壊。防御力を大幅に上げる兄様の技です」
サヤの言葉と同時に、カイが何やら力を貯めるような動作を始めた。
「いけません!皆さん、防御してください!!」
サヤに言われるままに全員が防御するのと同時に、カイの爪が目にも止まらぬ速度でレイジ達を薙ぎ払った。
同じ四天王のセキトやキサラのものよりも数段強力な攻撃であった。
「くぅっ……!!今のは……」
「怪力乱神と紫電一閃を使い、魔狼爪を放つ。一度に多数の敵を薙ぎ払う時の兄様の手です」
即座にレミがヒールライトをかけたが、焼け石に水の感がある。
ガードしてこれでは、サヤの指示が遅れていたらと思うとぞっとする。
……などと考えている間に、カイがレミのすぐ傍に迫り龍の如き強烈な一撃を叩き込んだ。
小さな体が舞い上がり、木製の柵に叩きつけられる。
「レミッ!」
龍爪撃。現在のカイが用いる最強の技を食らったレミは起き上がる気配が無い。
駆け寄ろうとしたレイジにも容赦なく爪の一撃を食らわせた。
「く……あ……」
見れば既にカイはサヤに肉薄し、その爪を振り下ろそうとしていた。
回復の出来る者を優先的に落とそうという考えだろう。
急いで駆け寄ろうとするが、そこでレイジはある異変に気付いた。
彼の振り上げた腕がプルプルと震えたまま動かないのだ。
まるで見えない何かが腕を押し留めているかのように。
(まさか、カイが抵抗を……!?)
そうだ、彼だってただ一人の肉親であるサヤを傷つけることを是とする筈が無い。
その意思は汲まなければならない。
「こっちへ来い!」
怒声と共に以前サヤと交わった時に体得した彼女のイクシア・風刃をカイに放った。
さしたるダメージにはならなかったが、怒らせるのには十分だったらしく猛然と突っ込んできた。
再び鉤爪を振り上げ、龍爪撃を繰り出そうとする。
その時、無から生み出された岩石がカイの頭頂部に炸裂し、体勢を崩した。
「私だって……少しはいいとこ見せないとね!」
「サンキュー、カレン!虚空閃!!」
レイジの抜刀により発生した斬撃の渦がカイを切り裂きながら吹き飛ばす。
飛んで行った先にはサヤが拳を構えて待っていた。
「霊峰!!」
サヤの白く輝く闘気を纏う拳がカイの胸倉を捕らえ、その体が床をゴロゴロと転がっていく。
「ぐ……ぐううぅ……!!サヤ……」
「兄様!?」
今の一撃が呪いの詩に何らかの影響を与えたのだろうか?
そこには先程までのカイがいた。
「すまないな……お前をほったらかしにしていた挙句、今はこの体たらく。せめて、自分の過失は自分で拭う……!!」
言い終わるや否や以前クウヤが見せたものよりは小規模ながらカイを中心に爆発が起こった。
「自爆したの……?」
呆然とした表情のカレンがつぶやく。
煙が晴れると、そこには傷だらけのカイが横たわっており、その体から闇のように黒い蛇のような竜のような魔獣が生えるように出現した。
「こいつが……呪いの詩!?」
「来ますよ!レイジさん構え……て……」
レイジを見ると、刀を握ったまま顔を伏せプルプル震えていた。
思い出すのは両親を魔獣に殺された時の事、そしてオグマにレミを連れ去られた時のこと。
(やっとサヤが再会できたのに……こんな奴の為に……!!)
全身を焼き尽くすような怒りに、心臓の鼓動がいつも以上に速く大きくなっている気がする。
「……うあああああああ!!!」
レイジが咆哮と共に刀を振るう。
虚空閃を遥かに凌ぐ剣圧と速度の……『神風』とでも呼ぶべき一太刀の前に覇堂家の兄妹に不幸をもたらす呪いの化身は断末魔と共に一刀両断にされた。
「今のって……」
「レイジさんの新しいイクシア……」
サヤがつぶやいた瞬間、糸が切れたようにレイジがその場に倒れ込んだ。
「レイジさん!兄様!」
「レミちゃん、大丈夫!?」