ゆきの工房・ノベルのイクシア・本編シリーズ:決意
ノベルのイクシア
本編シリーズ
決意
主を失った蓮部探偵事務所には重苦しい空気が漂っていた。
レイジ達は2人ずつ分かれて1階のテーブルを挟んで席につき、沈鬱な表情を浮かべていた。
常日頃そのテーブルで探偵事務所に客を呼ぼうと頭をひねっていた男の姿はない。
闇の魔石を取りに行った筈なのに、これまで手に入れた全ての魔石までも敵に奪われ、この場の4人の命と引き換えにかけがえのない仲間・クウヤさえも失ってしまった。
最悪なのはクウヤの献身の甲斐なく、総帥セツナが生き残ってしまったこと。
絶望の街の名の通り、絶望だけを持ち帰るというあまりにも皮肉な結果となった。
「みんな」
重い沈黙を破り、レイジが口を開いた
「クウヤを失って悲しいとは思う。けど、俺達はこの後どうしていくかを決めないといけない」
「クウヤさんの犠牲を無駄にしないためにもエミニオンを止めなくてはならないと思います」
レイジが言い終えるのと同時にサヤが迷うことなく告げる。
「私も同意見よ」
「私も……そう思う」
カレン、レミも続く。
「……皆考える事は同じか」
女性陣3人が同時にうなずいた
「すると次にやるべきは光の魔石を手に入れる事だな。封魔の遺跡とやらにサヤは心当たりがあるようだけど……」
「はい。封魔の遺跡は私の故郷、覇堂神社の近くにあります」
「そうなると問題は……」
3人の視線がレミに向けられた。
「レミちゃんはどうしようか?また今回みたいにエミニオンに襲われるかもしれないわよ」
「どこか安全な場所に隠れてもらいましょうか?」
「でも、どこに?」
「覇堂神社へ行けば……」
「あ……あのっ……!!」
不意にレミがレイジ達3人の会話を遮って立ち上がった。
「私に……進化の核を使わせてくださいっ!!」
その提案に3人とも面食らった。
確かにクウヤの死などで忘れてはいたが、懺悔の洞窟の最深部で手に入れた進化の核は持ち帰っている。
そしてレミには進化の核の適性があるとあの時確かにオグマの部下が言っていた。
「私……これ以上皆の足を引っ張りたくないの!私も役に立ちたいんです!」
「つまり……私達と一緒に戦いたい、ってこと?」
「その通りです」
カレンの問いに、レミはきっぱりと即答する。
「……超越者になれたとして、魔獣と戦えるか?怪我だってするぞ。それだけじゃない、エミニオンの連中……つまり人間と戦う事もあるぞ?」
レイジはテーブルを挟んだ先の妹の目をまっすぐ見据えて問う。
すると彼女の表情が沈んだ。
「確かに魔獣と戦うのは怖いよ。人を傷つけるのも傷けられるのだっていやだよ……」
きっと口を結んで言葉を切り
「でも……みんなの役に立てない方が嫌なの。私が戦えたらクウヤさんだって……」
「あれはレミの……いや、俺達の内の誰のせいでもない」
レイジのフォローに、レミは首を横に振る。
「みんなの帰りを待ってる時にいつも思ってたの。他に手伝えることがあるんじゃないかって。だから……私にも手伝わせて欲しいの!!」
決意は固いようだ。
その目はもう怯える無力な少女ではなく、サヤやカレンと同じ戦う覚悟を秘めた目だ。
「レイジさん……」
隣に座ったサヤが笑みを浮かべてレイジの方に手を置く。
「認めてあげましょう」
「サヤ……」
「私、レミさんの気持ち凄くわかる気がするんです。魔獣退治に励む兄様の背中を見てばかりで、役に立ちたくて修業はしていたけれど……結局は……」
目を伏せ、苦い記憶を語るサヤ。
その表情からは家族を失った時に何も出来なかった深い悲しみと後悔が感じられた。
「だからレミさんには……」
「皆まで言わなくてもいいよ」
サヤの言葉の続きをレイジは手で制した。
「お兄ちゃん!じゃあ……」
「レミが自分で決めたんなら、その意志は尊重しないとな」
「綺麗……」
そうレミがつぶやいたように、懺悔の洞窟から持ち帰った進化の核は不純物の無い氷のように透明な結晶だった。
ちなみにレイジに使われた進化の核はサヤによると虹色に煌めくものだったらしい。
他人(多分女性限定)と交わる事で様々なイクシアを習得出来る進化の核が、複数の色が交わっている虹色というのは合点の行く話であった。
サヤはそれをレミの胸に押し当て、なにがしかを念じる。
次の瞬間にはレイジ達3人の前で進化の核が消える。
「すごい……身体の奥底から力が湧き上がってくる感じがする」
レミが目を見開いて感嘆の声を上げる。
「確かに凄い力を感じるわ。実は優れた才能を持ってるんじゃないかしら」
「これは、レイジさんもうかうかしてられませんね」
「はは……精々兄としての面目を保てるように頑張るさ」
にやにやと笑みを浮かべるサヤに、レイジが張り付いたような笑みを浮かべて返事を返す。
「それで、どんなイクシアが使えるようになったの?」
「えーとですね……」
レミによると、短刀と氷による攻撃のイクシア。
サヤと同じく治癒のイクシア。
敵に眠らせたり混乱させたりなどの状態異常を引き起こす精神のイクシア。
これらが彼女が使用可能なイクシアだという。
(俺が超越者になった時とはレパートリーが大違いだな……確かに優れた才能を持ってるのかもな)
という思考を悟られるぬようにレイジは言葉を紡ぐ。
「氷……俺とは反対の属性か……」
「でも斬撃同士なんてさっすが兄妹!って思うけどな」
とカレン。
「私と同じ回復イクシア使いですね」
「ふふっ、ご教授お願いします、先輩」
段々敵の攻撃が激しくなってきており、正直なところいつまでもサヤ一人に回復を任せているのは心もとなかったので渡りに船といったところだ。
レイジ達の役に立ちたいと願ったレミだからこそ治癒のイクシアを得たのかもしれない。
などとレイジが思っていると、妹が彼の間近にやってきて
「ふふっ。今度は私がお兄ちゃんを護る番だからね」
とにこやかな笑みで言った。
これから血生臭い戦いの日々が始まるというのに、晴れやかな笑みを浮かべる妹を頼もしく、誇らしく思うレイジであった。
レイジ達は2人ずつ分かれて1階のテーブルを挟んで席につき、沈鬱な表情を浮かべていた。
常日頃そのテーブルで探偵事務所に客を呼ぼうと頭をひねっていた男の姿はない。
闇の魔石を取りに行った筈なのに、これまで手に入れた全ての魔石までも敵に奪われ、この場の4人の命と引き換えにかけがえのない仲間・クウヤさえも失ってしまった。
最悪なのはクウヤの献身の甲斐なく、総帥セツナが生き残ってしまったこと。
絶望の街の名の通り、絶望だけを持ち帰るというあまりにも皮肉な結果となった。
「みんな」
重い沈黙を破り、レイジが口を開いた
「クウヤを失って悲しいとは思う。けど、俺達はこの後どうしていくかを決めないといけない」
「クウヤさんの犠牲を無駄にしないためにもエミニオンを止めなくてはならないと思います」
レイジが言い終えるのと同時にサヤが迷うことなく告げる。
「私も同意見よ」
「私も……そう思う」
カレン、レミも続く。
「……皆考える事は同じか」
女性陣3人が同時にうなずいた
「すると次にやるべきは光の魔石を手に入れる事だな。封魔の遺跡とやらにサヤは心当たりがあるようだけど……」
「はい。封魔の遺跡は私の故郷、覇堂神社の近くにあります」
「そうなると問題は……」
3人の視線がレミに向けられた。
「レミちゃんはどうしようか?また今回みたいにエミニオンに襲われるかもしれないわよ」
「どこか安全な場所に隠れてもらいましょうか?」
「でも、どこに?」
「覇堂神社へ行けば……」
「あ……あのっ……!!」
不意にレミがレイジ達3人の会話を遮って立ち上がった。
「私に……進化の核を使わせてくださいっ!!」
その提案に3人とも面食らった。
確かにクウヤの死などで忘れてはいたが、懺悔の洞窟の最深部で手に入れた進化の核は持ち帰っている。
そしてレミには進化の核の適性があるとあの時確かにオグマの部下が言っていた。
「私……これ以上皆の足を引っ張りたくないの!私も役に立ちたいんです!」
「つまり……私達と一緒に戦いたい、ってこと?」
「その通りです」
カレンの問いに、レミはきっぱりと即答する。
「……超越者になれたとして、魔獣と戦えるか?怪我だってするぞ。それだけじゃない、エミニオンの連中……つまり人間と戦う事もあるぞ?」
レイジはテーブルを挟んだ先の妹の目をまっすぐ見据えて問う。
すると彼女の表情が沈んだ。
「確かに魔獣と戦うのは怖いよ。人を傷つけるのも傷けられるのだっていやだよ……」
きっと口を結んで言葉を切り
「でも……みんなの役に立てない方が嫌なの。私が戦えたらクウヤさんだって……」
「あれはレミの……いや、俺達の内の誰のせいでもない」
レイジのフォローに、レミは首を横に振る。
「みんなの帰りを待ってる時にいつも思ってたの。他に手伝えることがあるんじゃないかって。だから……私にも手伝わせて欲しいの!!」
決意は固いようだ。
その目はもう怯える無力な少女ではなく、サヤやカレンと同じ戦う覚悟を秘めた目だ。
「レイジさん……」
隣に座ったサヤが笑みを浮かべてレイジの方に手を置く。
「認めてあげましょう」
「サヤ……」
「私、レミさんの気持ち凄くわかる気がするんです。魔獣退治に励む兄様の背中を見てばかりで、役に立ちたくて修業はしていたけれど……結局は……」
目を伏せ、苦い記憶を語るサヤ。
その表情からは家族を失った時に何も出来なかった深い悲しみと後悔が感じられた。
「だからレミさんには……」
「皆まで言わなくてもいいよ」
サヤの言葉の続きをレイジは手で制した。
「お兄ちゃん!じゃあ……」
「レミが自分で決めたんなら、その意志は尊重しないとな」
「綺麗……」
そうレミがつぶやいたように、懺悔の洞窟から持ち帰った進化の核は不純物の無い氷のように透明な結晶だった。
ちなみにレイジに使われた進化の核はサヤによると虹色に煌めくものだったらしい。
他人(多分女性限定)と交わる事で様々なイクシアを習得出来る進化の核が、複数の色が交わっている虹色というのは合点の行く話であった。
サヤはそれをレミの胸に押し当て、なにがしかを念じる。
次の瞬間にはレイジ達3人の前で進化の核が消える。
「すごい……身体の奥底から力が湧き上がってくる感じがする」
レミが目を見開いて感嘆の声を上げる。
「確かに凄い力を感じるわ。実は優れた才能を持ってるんじゃないかしら」
「これは、レイジさんもうかうかしてられませんね」
「はは……精々兄としての面目を保てるように頑張るさ」
にやにやと笑みを浮かべるサヤに、レイジが張り付いたような笑みを浮かべて返事を返す。
「それで、どんなイクシアが使えるようになったの?」
「えーとですね……」
レミによると、短刀と氷による攻撃のイクシア。
サヤと同じく治癒のイクシア。
敵に眠らせたり混乱させたりなどの状態異常を引き起こす精神のイクシア。
これらが彼女が使用可能なイクシアだという。
(俺が超越者になった時とはレパートリーが大違いだな……確かに優れた才能を持ってるのかもな)
という思考を悟られるぬようにレイジは言葉を紡ぐ。
「氷……俺とは反対の属性か……」
「でも斬撃同士なんてさっすが兄妹!って思うけどな」
とカレン。
「私と同じ回復イクシア使いですね」
「ふふっ、ご教授お願いします、先輩」
段々敵の攻撃が激しくなってきており、正直なところいつまでもサヤ一人に回復を任せているのは心もとなかったので渡りに船といったところだ。
レイジ達の役に立ちたいと願ったレミだからこそ治癒のイクシアを得たのかもしれない。
などとレイジが思っていると、妹が彼の間近にやってきて
「ふふっ。今度は私がお兄ちゃんを護る番だからね」
とにこやかな笑みで言った。
これから血生臭い戦いの日々が始まるというのに、晴れやかな笑みを浮かべる妹を頼もしく、誇らしく思うレイジであった。